セール品に目がない。そんな習性に翻弄されるのはもう嫌だ、そう思うも、先日もついついセール品に手が伸びた。

499円!?それはあり得ない破格値だった。アウトドアブランドの衣類では、これまで見かけたことのない価格。元の値段は4,999円。ということは、なんと、9割引きということだ。とはいえ、9割引きという表記はどこにもない。であるなら、何かの間違えかもしれない。用心深くチェックする。商品につけられたタグだけではない。赤く太文字で書かれた499円というポップが重ねて、本当にこの商品が499円であることを示していた。これはまさしく、499円なのだ。信じがたいがこの手にとったシャツワンピは、499円、9割引きなのだという。こんなお買い得な商品に出会えるなんてめったにないことだ。なんてラッキーなのだろうと舞い上がっていた。
数年前まで愛用していたシャツワンピを思い出す。やはりこちらもアウトドアブランドのシャツワンピだった。こちらはもっと高価なものだったが、一目惚れしてしまい、私には珍しく試着なしでネット購入したものだった。物が良いと、着ていて気分が良い。また、「いい服を着ているね」と二度ほど人にも褒められた。普段いい服を着ていないからかもしれないが。
お気に入りはヘビロテし、そんなにも遠くない将来に劣化する運命にある。このシャツワンピももれなく数年が経つと、細かな毛玉ができたりと、くたびれた印象を発するようになった。もう、いい服ではなくなっていた。なので、潔く葬った。

あのお気に入りだったシャツワンピに酷似していたのだ。ボタンは私の好きなスナップボタン、襟は私の好きなノーカラー、私の好きな撥水加工だ。色も同じく白。だが、新たに手にしたこちらの白は、黄色みが強い白で、お気に入りだったグレー感がほんの少しあったあの白とは、だいぶ印象が違う。とはいえ、私の好きな要素が詰まったシャツワンピであることには変わりなかった。
フィッティングルームに行くまでもないと、売り場に置かれた姿見の前でさっと羽織った。サイズはLサイズのみだったが、それがちょうど羽織ものとして活躍しそうなサイズ感となり、普段Mサイズを選ぶ私だが、むしろLを選ぶことが正解だと確信。購入に迷いはなかった。私には、あの破格値がついているのだから。
だが、私は石橋を叩いて渡る人間だ。失敗は許さない。例え安すぎる買い物であってもそれは変わらない。むしろ、「安物買いの銭失い」コンプレックスが発動するので、セール品に大してはさらなる厳しい目が向けられた。もう、安さに釣られて不要なものを買うなんて、金輪際お断りなのだ。
そうこうしている内に心がざわめき始める。やはり、フィッティングルームで落ち着いて着てみるべきだと考えた。同時に夫を探した。
「いくらだと思う?」
「うーん、4,900円。」
勝ち誇った顔で値札を見せる私。信じられずに「間違いなんじゃないの?」という夫。そんな予想通りのシーンを通過して、フィッティングルームに夫を連れていく。
心のざわめきが増していく。大切なことはお気に入りを選ぶことで、安いものを選ぶことでは決してないのに、安さに執着している自分に気づく。それでも、このシャツワンピを手放すことができず、「こんなときに着れるから」と自分を説得しようとした。迷いはなかったはずが、迷いに迷うことになってしまった。夫が自分のスニーカーを選び終えるまで、私は迷い続けた。
心のざわざわは臨界点に達した。優柔不断な自分を張り倒してやりたくなった。四の五の言わずに買え!と自分を奮い立たせレジへと向かった。ところが、買えなかった。夫のスニーカーのレジを通した値段が、夫が認識していた値段と違う。もう一度スニーカー売り場へと、シャツワンピを再び手にして戻らされた。
一度は購入を決めたはずだったのだが、考える猶予を与えられるとすぐに再び、迷い始めた。夫のスニーカーの試着に付き合っている間、夫には悪いが心ここにあらず、手に持っているワンピースを買うべきか買わざるべきか必死に考えを巡らせていた。結果、買うことをやめた。
どうにかしてこのお買い得なシャツワンピを買いたがっていた私だったが、なんとか正気に戻ることができたのだ。このシャツワンピ自体をそこまで良いと思っていない正直な気持ちに嘘をつくことはもうできない。心をざわつかせていたのは、自分の正直な気持ちに嘘をついていることを知らせるサイレンだったのだ。安さに魅了された私は自分を騙していた。危ない危ない。またもや安物買いの銭失いをしてしまうところだった。
あの白は私には似合わない白だった。この白はダメだとよく分かっているはずなのに、破格値が私を狂わせていたのだ。そう、正直似合っていない、そこまで気に入っていないのに、お買い得だと買いたくなってしまうこの困った習性に、何度してやられたことか。そんな自分が情けなく、恥ずかしい。こんな自分を証拠づける気に入らない安物は全て、捨て去ってしまいたい。

持つものを厳選し、お気に入りの衣類だけでクローゼットを満たしたい。もちろん、持ち過ぎることは避ける。全ての衣類に気を配れる程よい数の衣類で、気持ちよくおしゃれを楽しみたい。それが私の願いなのだ。それなのに、まさに逆行するようなことをしようとしていた。あぁよかった、買わなくて。大して着ずに捨て去られる運命の洋服を手に入れずに済んだ。または、気に入らない洋服を無理に着ることなく済んだ。とにかく物を粗末に扱わずに済んだ。それに、お金も無駄にせずに済んだ。安物買いの銭失いという魔の手から逃れることができた。

それにしても、夫のスニーカーの一件がなければ、シャツワンピを購入していたことは間違いなかった。そう思うと、大袈裟なことを言っているとは思うが、私は守られているのだろう。ご先祖様か何様か分からないが、私が道を誤らないように守ってくれている存在がいるに違いない。
ちなみに、夫も気に入ったスニーカーを納得の価格で、つまりセール価格で、無事購入することができ、大変満足していた。私たち夫婦は揃ってセール品が好きだ。セール品の魅力には敵わない。



