アーユルヴェーダとはインドの伝統医療である。私はこれまで民間療法のいくつかに度々興味を持っては、気が向くままに手を変え品を変え試してきた。インドには縁があり、これまで何度も夫と訪れている。ヨガの太陽礼拝は習慣化してそろそろ4年となる。アーユルヴェーダを生活に取り入れることは私にとってあまりにも自然なことのように思われた。だが、これまでアーユルヴェーダを学ぼうとしたことは一度もなかった。アーユルヴェーダを知らなかったわけではない、一向に知ろうとしなかった。ドーシャという3つのタイプ診断の結果に違和感を感じていたからだ。日本人には当てはまらないのだろうという判断を下してから二十年が経っていた。昨年の春、当時の私は浅はかであったことを知った。

アーユルヴェーダは世界最古の伝統医療だ。人間を単純に三分類してあれを食べろこれを食べるなというだけの短絡的なものでは決してない。その奥深さに触れたらもう後戻りはできない。などと言いつつ、私はその奥深さには触れていない。アーユルヴェーダを大して学んでなどいないことを打ち明けよう。ド素人である。
偶然にもこれまでもっていた違和感を払拭することができた。すると、あまりにも当然のことのようにアーユルヴェーダは私の指針の一部となった。YouTubeやサイトなどで情報を集めた。本を一冊手に入れるとすぐに読み終え(レシピ満載で初心者向けの読みやすい本だ。大変役立っている。文章の終わりにのせておくので興味のある方はチェックしてほしい。)その後も何度も見返してはアーユルヴェーダを実践。アーユルヴェーダは私の脳内にごく自然に浸透した。
我が家の食卓に日本のカレーライスが登場したことは殆どない。決まってスパイスカレーだ。インドやネパール、スリランカを彷彿とさせる、あのカレーが家のカレーなのだ。以前からクミンやコリアンダーなどのスパイスは、酒やみりんと同程度の頻度で使っている。インド好きなためスパイスにはもともと馴染みがあった。アーユルヴェーダにハマってからは、CCFティーというスパイスティーを毎日淹れて飲むようになった。CCFとはクミン、コリアンダー、フェンネルの頭文字だ。万人に良いとされるお茶で、飲みやすく、飽きがこない。胃腸などの調子を整えてくれている。アジョワンティーも夕食時によく飲む。豆料理が好きな私だが、豆を食べるとお腹が張りやすい。それを抑えてくれるこのお茶はありがたい。だが、かなり独特な香りがする。夫には不評だ。

舌磨きは舌磨きブラシからインド製の舌用スクレーパーに取って代わるという小さな世代交代がなされた。他にも何かあった気がするが、、、試してみたが却下されたものもある。私の生活はそれほどアーユルヴェーダアーユルヴェーダしていないのかもしれない。その存在感はきっとこれから増していく、かもしれない。現状はまだ開拓の途上にある。
気になってはいるがどうしても手を出すことのできないアーユルヴェーダの教えがある。ディナチャリアだ。理想的な生活の過ごし方を示したもので、これはなかなか手ごわい。殆ど俄かファンには無理難題と思われる。であるにも関わらず、私はこのディナチャリアを意識せずにはいられない。私は無類のルーティン好き、生活と健康に関わること好きで、この手の話には目がない。

日の出の96分前から48分前の時間帯はブラフマムフルタという一日のうちで最も神聖な時間だ。最近の日の出を調べてみた。私の住む地域の1月31日では、6時46分だ。だとすると、5時10分から5時58分の時間帯がブラフマムフルタとなる。このブラフマムフルタ、とくに瞑想するのに最適な時間だという。5時10分に起きて、身支度して白湯を飲み、瞑想を20分ほど、そんな朝の過ごし方に憧れる。では、やろうではないか。だが、睡眠不足になるのではないか、かえって健康を損ないはしないか、そんな不安がよぎってしまう。
寝る時間を早めようにも、今の10時就寝が限度のように思われる。10時に入眠できていれば、7時間睡眠で5時に起きるのはそこまで難しくはないだろうが、マインドが騒ぐ。
「8時間寝たい!9時間でも寝たい!最低でも7時間半寝たい!そうじゃなきゃ、もたない!」
あらゆる健康博士が、睡眠時間は8時間を推奨している。6時間半以上寝ないと脳内のゴミが掃除されないとどこかで聞いたこともある。ブラフマムフルタのために健康を犠牲にすることになってしまっては、本末転倒だ。だが、アーユルヴェーダではこんな早起きを推奨するのだ。最適な睡眠時間はドーシャによって違う。ヴァータは8時間、ピッタは7時間、カパは最も短く6時間。カパは脳内の掃除のスピードが速いのだろうか。のんびり屋さんなのに。

ブラフマムフルタの時間帯に瞑想することで神聖なエネルギーを取り入れられることを考慮に入れれば、多少の睡眠不足を十分補えることはもちろん、それ以上の旨味があるのだろう。足し引きゼロ以上の素晴らしい恩恵が。こんな打算的な私にも、ブラフマムフルタの神は微笑んでくれるだろうか。
夏は何時になるのかも気になるところだ。夏至の日の出を調べてみた。4時26分だ。ということは、2時50分から3時38分がブラフマムフルタの時間帯となる。3時前、これはお手上げだ。夜8時前には寝ていないと7時間すら眠れない。就寝時間が10時なら5時間眠れない。十分眠れないのだ。いくら素晴らしい恩恵を受けられたとしても、これではさすがに体も脳もまいってしまいそうだ。考えただけでくらくらする。
とりあえず先のことは考えずに挑戦してみるのはどうだろう。5時に起きてみよう。実はそのくらいの時間であれば、布団から出ることはないにしろ自然と目覚めている日は少なくない。さあ、明日から5時起きだ。

なんて言ってみたものの、まだマインドは煮え切らない。あと一時間寝たい欲求を拭えないでいるのだ。夜9時に寝てはどうだろう。不可能ではないはずだ。
待て待て。私は一人で生きているわけではないことを念頭に置かなければならない。私が9時に寝るということは、私の夕刻から就寝前の生活スタイルに手を加えることになる。そうすればもちろん、夫の生活にも波紋が及ぶ。自分の生活リズムと夫婦の生活リズムのバランスをとることは絶対に必要だ。やっぱり9時に寝ることは難しい。
これは妥協なのか。いや、違う。私は何もディナチャリアに従うこと、自然と調和して生きることのみを理想とはしてはいない。夫と調和して生きることの方が大切だ。私の幸せは夫婦で楽しく生活することにあるのだから。夫と調和した暮らしが、私の理想の生活であり、生活をデザインする上で最も大切にしている指針である。夫婦の笑顔が絶えない暮らし、それが最優先だ、それを変えるつもりはない。であるなら、アーユルヴェーダもこれまでか。いや、まだまだできることはあるはずだ。

